INTERVIEW

本作の制作秘話(?)のアレコレを伊藤陽一郎a.k.a.AKAKAGEが語る

 「昔は避けていたような恥ずかしいことも
今は〈やっちゃえ!〉と」(伊藤)

 実に4年ぶりとなるAKAKAGEのニュー・アルバム『PEACE MAKER』。本作には2010年にリリースされた前作『I'm Your Clown』からの4年間、AKAKAGEこと伊藤陽一郎が経験してきたものや彼自身の変化・成長がそのまま刻み込まれている。
(インタビュー、構成、text:大石始)


――4年前の前作『I'm Your Clown』で伊藤さんが表現しようとしていたのはどういうものだったのでしょうか。
「今から思うと、〈乗っかってる〉という意識が強かったのかな。現役バリバリでDJをやってたころだから、特定のシーンに乗っかってる感じというか、DJのツールというイメージが強かった」

――4年経って、そういう意識も変わってきた?
「そうだね。今は少しクラブ・シーンから離れていて、自分からあまり能動的にDJをやろうとはしてなくて。そのなかでより〈好き勝手にやろう〉という方向性になっている。今回はクラブ・ミュージックというよりもフラットにポップスを作ろうとしたところはあるね」

――伊藤さんの活動のなかでアルバム制作はどのように位置づけられているんですか?
「言ってしまえば、メインの作業。録音物の制作は常に念頭に置いてるし、毎日のように制作してるからね。今回のレーベルから話がくるまでは違う名義のアルバムを用意してたんだけど、話がきてから今回のアルバムにシフトした感じ」

――最初のアルバム『Would you like akakage?』がリリースされたのが98年。それ以降で音楽を取り巻く状況もかなり変わりましたが、アルバム・リリースの意味やあり方も変わってきてると思うんですね。
「世間的にはそうなんだろうけど、個人的意識はそんなに変わってない。そりゃ予算は全然変わっちゃったけど、作品作りに対するモチベーションは学生時代から変わらないかもしれない。とにかく音楽を作りたいんだよね。前のアルバム以降、そういうことに対して開き直れるようになってきて、昔は避けていたような恥ずかしく感じてたことも〈やっちゃえ!〉という風になってる」

――なるほど。
「あとね、今回は<出会い>というものを大切にしてる。『I'm Your Clown』のときに(今回のアルバムに参加しているトランペッターの)MITCHも紹介してもらってたんだけど、そのときは自分のなかでアイデアがなくて。それとこの4年間でDJよりもミュージシャンの人たちと会う機会が増えたこともあって、自分のなかでトラックメイキングの方法論も広がった」

――そのMITCHさんが参加しているTVアニメ「うる星やつら」の初代主題歌“Lum’s Love Song”(原題は“ラムのラブソング”)のカヴァーにはMITCHさんがかつて活動していたBlack Bottom Brass Bandのメンバーも加わっていて、賑やかなニューオーリンズ・ブラスを聴かせてくれます。
「この曲は10年以上前からやりたいと思ってて。メロディーが好きでね、いつかトライしたいと思ってたんだよね。でも、初期のAKAKAGEの段階ではうまく消化できない気がしてね、歌じゃなくてインストだと。この4年間で好きになったバンドのひとつが(ニューオーリンズのブラス・ファンク・バンド)ホット8ブラス・バンドなんだけど、この曲の当初のイメージはホット8とロックステディを混ぜるというものだった。それでとりあえずMITCHとスタジオに入ってみようと。ただ、ブラスを録ったあとに何かが足りないなと思って、LÄ-PPISCHのTATSUさんに相談したりもしたんですよ。<何が足りないと思います?>って。……この曲は時間をかけて作り込んでるんだよね」

――カヴァーというと、日本有数の盆踊り〈郡上おどり〉で歌い踊られることでも知られる岐阜県民謡“春駒”のダブステップ~ムーンバートンなリメイク“春駒(vs AKAKAGE 2014)”もありますね。
「“春駒”は本当に子供のころから聴いていた曲でね。実家が岐阜城の近くで、長良川で鵜飼なんかをやってるわけ。鵜飼のシーズンになると踊り船というものが出て、そこで郡上踊りの曲をやってるんだよ。それを子供のころから聴いていて、なかでも“春駒”は格好よくて好きだった。それこそ<俺の曲>ぐらいの気持ちでいるわけですよ(笑)。で、あるときに中古CD屋で郡上踊りのCDをたまたま見つけてね。そこに入っていた“春駒”で一度ループを組んでみたら、ものすごく格好いいデモができたわけ」

――ただ、実際のトラックは岐阜の郡上おどり保存会のレコーディングをしたものが元になってるんですよね。
「そうそう。郡上の役場に電話して、向こうまで録りにいって、会長さんのおじいさんは<こういうことはやったほうがいい>と言ってくれてね。そんなことを言ってくれるものだから、世界に響く曲にしようと。ダブステップ的なリズムと“春駒”は間違いなく合うと前から思ってたし、念願の1曲という感じだね」

――ブランニュー・ヘヴィーズ“You Are The Universe”(97年)のカヴァーのアイデアはどういうところから?
「これはね、自分的に〈怖い〉曲だったんですよ」

――怖い?
「だって、いわゆるダンス・ミュージックのヒット中のヒット・ナンバーだし、大ネタも大ネタじゃないですか。去年CMの仕事をしたとき、ラテンのネタでループ・トラックを作ってたんですね。そうしたら“You Are The Universe”のメロディーがふと乗る気がしてね。最終的にはラテンのネタも全部消して、堀江(博久)くんの鍵盤をメインにしたんだけどね(笑)」

――この“You Are The Universe”のラストにもニューオーリンズ・ブラスのパートがありますね。
「ニューオーリンズはもともと好きなんですよ。バルカンもそうだし、ビッグバンドもスカもそうだし、要するにブラスが好きなんだと思う(笑)」

――そうしたブラスへの愛着は冒頭の“Welcome to My Big Party”から爆発してますよね。続く“OH MY GOD”もEDM的な質感の曲で。
「ブレイクビーツとネタ、それとシンセという組み合わせはここ数年トライしてるもので、この曲もその路線にあるもの。ただし前回と違うのは、どの曲にもフックがあって、狙いどころがよりはっきりと見えたうえで作ってる」

――EDMを作ろうとしているわけではなく。
「そうそう。4曲目の“Garçon”もエレクトロ・スウィングと言われることもあるんだけど、エレクトロ・スウィングを作ろうとして作ったわけじゃないんだけどね。おそらく今まで以上にシンセを入れてるからそう聴こえるのかもしれない。“MACARONI”と“Cha Cha Cha in Heaven”はAKAKAGE的なラテンだけど、それも特定のジャンルのものを作ろうとして作っているわけではなくて。好きなものと好きなものを合わせて、そこから新しいものを生み出したかった。しかも特定のスタイルに則った形じゃなくて、〈生み出されちゃう〉感じというか……」

――AとBという音楽の要素を伊藤さんのなかで消化吸収して吐き出したら、まったく別のDやEになるという。
「それが理想だね」

――メロウな“Oriental Garden”にしても〈ラウンジー〉という一言じゃ済ませられない凝った作りですよね。
「“Oriental Garden”はね、ある意味で言えば一番やりたいタイプの曲。ループ好き・ループ職人としては、サンプリングのループだけでずっと聴けるものというのが理想のトラックのイメージとしてあって、この“Oriental Garden”はまさにそういう曲かも」

――また、今回はさまざまなゲストが参加してますよね。ジャジーな“木曜日の物憂い”では前作に続いて将絢さん(元ROMANCREW)が気怠い歌声を聴かせてくれています。
「これはね、とある飲み屋で将絢と会ったことがあって、そのときに<またやりましょうよ>って言われたんですよ。そのまま家に帰って、すぐに将絢をイメージした曲を作った。それがこの曲」

――“真夜中 SUN SUN SUN”では曽我部恵一さんが艶っぽい歌声を披露していて。
「“真夜中 SUN SUN SUN”はもともとクンビアのループから作り出して、そこにシンセやベースを入れてみたら歌が乗りそうな気がしてきてね。湧いてきたメロを鼻歌で入れて、そこまで作ってヴォーカルを探してたんです。ラーメン繋がりで(ラーメン評論家としても活躍する)サニーデイ・サーヴィスの田中貴くんとは仲良くて、一緒に呑みながら〈今、ヴォーカル探してるんだよね〉って相談したんですよ。そうしたら〈曽我部は?〉って言うので、お願いすることに...。曽我部くんが書いてくれた歌詞もおもしろいと思うし、彼じゃないと歌えない歌だと思う。……そういえばね、ウチの子、中1なんですけど、入学式にいったら曽我部くんがいたんですよ。子供同士がまさかの同級生だったという(笑)」

――それはすごいですね(笑)。
「今回はそういう一期一会を大切にしてるんですよ。歳を取ったからそう思うようになったのかもしれないけど、今回はそれが活きた気がする。郡上に実際に行ったこともそうだし、将絢や曽我部くん、MITCHとの出会いにしてもそうだし」

――できあがったものを振り返ってみて、いかがですか。
「だいぶ満足してます。今までは作った後にすぐひとりで反省会をしてたんだけど、今回は今までに比べて満足度が高い。“春駒”とか“ラムのラブソング”みたいに昔からやりたかった曲も形にできたし、今まで以上に喜びが大きいんだろうね。あと、なによりも自分勝手にできたのが大きい。クラブ・シーンから何となく距離を置いているのがいい意味で反映されてるのかもしれないし、興味を持ってるところがクラブとは違うところにあって、〈それでいいんだ〉と思いながら作った作品でもあるので。たぶんね、3.11以降で心境も変化してきたんだと思う。なぜか音楽以外のことにやたらと積極的になって、それまでやったこともない野球をやり始めたり、そのことで一流のアスリートと出会う機会があったり、ラーメンとかのグルメを通してシェフと仲良くなったり……彼らの言葉にグッとくることも多くて。そのおかげで自分自身努力するようになったというか、素直になったんだろうね。そういう部分が今回の音に出てると思う」

 デビュー作『Would you like akakage?』から15年。より自由奔放に自身の音楽世界を描き出した『PEACE MAKER』のピースフルでマジカルな楽しさをぜひ体感していただきたい。(ライター/エディター 大石始)